上級者は日本語が上手すぎてレッスンで何をしたらいいかわからない!
よくいただくご質問です。
私は上級者のレッスンでトピックわざわざ準備することはめったにありません。生徒の状況、ニーズに合わせたトピックをその場で提供しています。ほとんどの方に1年以上リピートしてもらっていますので効果的な方法と言えると思いますので、今回は実例をご紹介しながら、その「トピックの作り方」と実際の9名の生徒のレッスンをご紹介しますね!

上級者向きのフリートークレッスンやビジネスのレッスンって、何をしたらいいんだろう?なんだか難しそう。新人の私にはできないと思う…



そんなことありません!社会人経験と一般的な知識があれば、対応可能ですよ!
上級者のレッスンで生徒に求められているものは?


踏み込んだ知的な会話
上級者がレッスンで求めているものは何だと思いますか?
彼らは母語でしているような「踏み込んだ知的な会話」ができるようになりたいのです。
上級者のレッスンで求められることそれは、ずばり「踏み込んだ知的な会話」で「自分の意見を言えるようになること」です。
好まれるトピックはビジネス、経済、社会、文化、政治
上級者は社会人が多いのでやはり会話の内容はビジネス、経済、社会、文化、政治などが好まれます。
学生の場合は大学院進学準備、日本の会社への入社準備目的が多いです。
専門科目の知識等に加えて、やはり社会、文化の知識が必要になります。
日本語教師にもある程度知識が必要
つまり日本語教師もある程度ビジネス、経済、社会、文化、政治の知識がないとレッスンが難しいんです。
アニメやドラマなどの共通の話題がある場合は別ですが、やはり話題が底をついてしまいます。
日本語上級者のフリートークのトピック選びで大切なこと
大切なことは「じぶんごと」


日本語上級者のトピック選びで一番大切なことは、トピックが生徒にとって「じぶんごと」かどうかということです。トピックが全く興味関心から離れている場合、実際の場面で使うことは少ないでしょう。
私たちも、生活で関心のないことはどの場面でも積極的に話しませんよね。
例えばその生徒にとって全く興味がないトピック、「環境破壊についてどう思うか」というテーマを提供したら、盛り上がらないのは当然です。興味がないので、意見もそうないでしょう。
とはいえ、生徒のことをまだよく知らず何もテーマを思いつかない場合もありますよね。
「環境破壊」をテーマにしたいなら、まず「ゴミの分別って面倒ですよね」など生徒の生活に関わることつまり「じぶんごと」からスタートすることです。そこから話を広げましょう。
生徒を知るための質問:生徒のニーズ、興味関心、生活環境を知る


トライアルレッスンや最初のレッスンでは、まだ生徒のことを何も知りません。
最初のステップはニーズ、興味関心、生活環境などを知ることです。
そのためにトライアルレッスンや最初の数回の授業で生徒を知るための質問をいくつかして、興味関心を探ります。
そして興味のあるテーマを提供することが、成功するフリートークに一番大切なことです。
では、生徒を知るためにする質問をいくつかご紹介します。
生徒の仕事


ビジネスパーソンの場合、日本語を仕事で使えるようになりたい、仕事相手との会話を上達させたいという人が多いです。
そのため、仕事内容、会社概要など差し支えなければ話してもらいます。
会社説明をすることなど実際でも想定されるシーンになりますので、練習しておくといいでしょう。
入社面接のようにならないように、会話の中で自然に聞くことが大切です。
興味関心
いくつかの質問からおおまかに生徒のタイプを知ることができます。
例えば以下のようなものです。
休日は何をしているか
最近気になるニュースは何
最近見たドラマや映画、また読んだ本(どんな内容?)
至って普通ですが、ただ聞くだけではなくてそこから生徒の思考タイプのヒントを得ることが大切です。
レッスンの時に聞き流すのではなく、しっかりと生徒の話す内容を覚えておきましょう。
例えば、週末は仲間とスポーツをしていて、一人で旅行することはない、という人なら外交的な性格ですよね。ですのでトピックの内容は割とポジティブな内容が好まれることが多いです。(例:新しい技術やビジネスの交渉術など)
逆に、一人が好き、休日は家で読書をしたい、という人なら内向的な性格ですので、社会問題や環境問題、人間の心理などの話題が好まれます。
ヒアリングデータの分析をもとにして、トピックを選びます。
【実例上級者生徒9名】レッスンで実際に何をしている?



では実際にどんな上級者に、どんなレッスンをしているか実際の私の生徒さん9名の例をご紹介していきますね。
ほとんどの生徒は何らかのレッスン(記事読解やビジネス表現、メール等)+フリートークの組み合わせで行っています。


1 Aさん より自然な発音、表現で話せるようになりたい
(将来的に日本企業に転職希望)
N1に合格し、実用で使えるための総合的な日本語能力を高めたいという要望の生徒さんです。
要望がいくつかあるので教材はいくつかを使い分けています。
一度のレッスンで全部やるわけではなく、それぞれキリがいいところまで終わってから別の内容に移ります。
例:小説読解 3回 → 慣用表現+会話 3回 →ビジネス 3回 以降繰り返し
- 要望
-
- 流暢さを極め、自然な日本語を話したい。
- 細かい発音、 イントネーションの違いを直したい。
- 小説を読んでいて、わからない表現や、内容理解ができない場合があるので読解力をつけて日本語で小説を楽しみたい。
- レッスン内容
-
- 小説読解
- 小説を音読
- イントネーション修正
- 内容確認
- 文法などの質問に答える
- 小説の内容について話し合う
より慣用的な表現を学ぶ
✔︎教科書を使用し、慣用表現をインプット
✔︎インプットした表現で作文(次回のレッスンで確認)
ビジネス
✔︎教科書を使ってビジネス表現を学ぶ
✔︎場面を想定しロールプレイ期待できる効果
- 自然な発音やイントネーションを身につけることができる
- 日本語で説明する力がつく
- 自然な表現を身につけることができる
- ビジネスで使う表現を学びさまざまな場面で使うことができるようになる
- 教材
-
小説 「容疑者Xの献身」
教科書 「わかる!話せる!日本語会話 発展文型125」
「ロールプレイで学ぶビジネス日本語 グローバル企業でのキャリア構築をめざして」
2 Bさん:日本人の顧客に対して自然で失礼のない話し方をしたい
アメリカのITサービスの会社で日本人顧客の対応をしている生徒さんです。


- 要望
-
ビジネスにおいて顧客や日本人社員と円滑なコミュニケーションをしたい
- レッスン内容
-
- 取り扱う商品の説明 概要、特徴、他社商品との違いについて話し合う
- 業界の現状や今後の展開の予想について話し合う
- 業務内容について説明、質問応答
- 会社説明
- 会社で起こっている問題
- 実際の仕事で使う生徒作成のスライドを使ってプレゼンをしてもらう (教師が取引先役になりロールプレイ
- 競合他社の記事を読んで話し合う
- ITの技術についての記事を読み、語彙、表現を学ぶ
- 断り、催促などのメールの書き方
期待できる効果
- 会社紹介ができるようになる
- 顧客に自社の製品をわかりやすく日本語で説明できるようになる
- 同業種、異業種のビジネスパーソンとのコミュニケーションが円滑になる
- 失礼のないプロフェッショナルなメールが書けるようになる
- 教材
-
- 生徒が実際に仕事で使用する資料競合他社のウェブサイト
- 生徒の自作のスライド
- 生徒が実際に書いたメール等
3 Cさん 医療機器関係の研究者
医療機器のための特別な技術を研究されている方です。
日本企業での就職を希望されているので、その時に役に立つ表現などを学んでいます。また、説明する力を伸ばしたいと言う希望があります。
- 要望
-
研究内容についてわかりやすく説明する技術を身につけたい。
- レッスン内容
-
✔︎医療機器に関する記事を読んで話し合う。
✔︎教師側から生徒の専門分野ついて質問する。(例:生徒が研究していることは具体的にどんな医療に役立てることができるのか、など)期待できる効果
- 顧客に自社製品を詳しく説明できるようになる
- 想定しない質問に答える訓練ができる
- 日本語で医療、技術の専門用語を理解し使えるようになる
- 教材
-
医療機器のものづくりに関しての記事
MONOist https://monoist.atmarkit.co.jp/
4 Dさん MBA入学準備をしたい
この方は日本でMBAに進学する準備をしています。
日本語はもちろん流暢なのですが、やはり不自然な部分もあり面接官に誤解を与えかねない表現をすることがありますので、生徒本人が伝えたい内容が伝わるように、話す、書く練習をしています。
- 要望
-
MBAの入学準備をしたい
- レッスン内容
-
- MBA入学のための小論文 研究計画書チェック
- 面接の練習 面接でよく聞かれることの準備 模擬面接
期待できる効果
- 小論文の書き方の知識を得る
- 研究計画書の改善
- 面接でさまざまな質問に対応できるようになる
- 不自然な表現の修正
- 教材
-
生徒が書いた入学志望理由や面接でよく聞かれる質問の回答


5 Eさん 日本の大学院進学希望 文学関連の研究をしたい大学生


- 要望
-
日本の大学院で文学の研究をしたい
- レッスン内容
-
- 文学作品の感想、考察を話し合う
- 小説のあらすじ説明
- 生徒の出身国の文学と日本文学の比較
- 面接対策
期待できる効果
- 研究計画を作成したり、面接をする際に自分の考えをしっかりと述べられるようになる。
- 表現力の強化
- 順序立てたわかりやすい説明ができるようになる
- 日本語の学習はもちろん、アウトプットすることで生徒自身の思考整理ができる。
- 教材
-
小説等



生徒の興味がある本はなるべく読むことをおすすめします。
内容を知って、感想を共有したり、質問をすることによってより活発な会話ができます。
読んでいないものについてはあらすじをできるだけ明確に説明してもらう課題を与えます。
大学院に合格するためにはより深い思考、分析、説明の力が必要になりますもんね。
6 Fさん日本語学科の大学生 (日本で留学、その後就職希望)
- 要望
-
日本や世界の社会問題を知って論理的に日本語で意見が述べられる様になりたい。
- レッスン内容
-
日本や世界の社会問題について教材で学び、自分の意見を述べる(例:グローバル化のメリットとデメリット 人種差別など)
期待できる効果
- 世界の情勢、問題についての知識を得ることができる
- 世界情勢に関わる語彙、表現を学び、アウトプットすることによって使えるようになる
- 会話の場合はもちろん、日本に留学、就職の際に役立つ論理的に意見を述べる力が身につく
- 教材
-
読むだけ小論文 基礎編 パワーアップ版



この生徒さんは0レベルから(当時高校生)一緒に勉強して上級レベルになった生徒さんです。
生徒の日本語力と精神年齢に合わせて、話す話題も変化させる工夫をしています。ずっとアニメのAが面白い、Bがかっこいいレベルの会話では語彙も表現力も増えません。
7 Gさん 研究者
自然エネルギーについて研究をしている方です。
- 要望
-
学会などで他の研究者や関係者とコミュニケーションを取りたい
- レッスン内容
-
- 自然エネルギーとはどんなものか
- 自然エネルギーのメリットとデメリット
- 太陽光パネルや海上風力発電設備の設置に対する地域住民の反対について
- 原子力発電について
- ドイツの自然エネルギー
期待できる効果
- 専門性の高い内容の話を日本語で説明し、意見を述べられるようになる
- 日本語での専門用語の語彙、表現力が強くなる(専門性の高い人同士の集まりで会話できるようになる)
- 教材
-
場合によって関連Webページ等



あまりにも専門的なので、私が知らないことが多いのですが「それはどういう意味ですか?」と質問すると生徒はわかりやすく説明しようと努力します。
それが生徒にとってとても良い練習になります。
とはいえ、全く的を外れた質問をすると日本語レッスンどころか会話が成立しなくなってしまいますので、ある程度の知識は必要です。日頃からアンテナを巡らせて生徒の専門のニュースなどは簡単にチェックしています。
8 Hさん 日本文化に強い関心のある上級者
日本の文化に深い興味を持っている方です。
日本語学習コミュニティで日本語初級者に日本語や日本文化を伝える活動をされているそうで、「日本人から日本文化を知る」ということに非常に大きな関心を持たれています。
また、頻繁に特定の日本文化や行事のテーマでの発表があるようで、そのテーマについて話し合いその内容を発表の参考にされています。
もちろん、発音や言い間違い表現の訂正はしていますが、「日本人の考え方や行動」を知ることにより重きをおいているようです。
- 要望
-
日本文化を深く知りたい ネイティブのような表現で話がしたい
- レッスン内容
-
- うちそとについて
- 恥の文化
- 企業文化
- 伝統行事とその成り立ち
- なぜ日本人の行動パターンとその理由
- 村社会
期待できる効果
- 日本語の表現を文化から理解できる(なぜこのような表現をするのかなど)
- 内容の濃い日本文化、行事の発表ができる
- 知的好奇心を満足させられる
- 教材
-
「日本人の心がわかる日本語」



80%は日本文化についてのディスカッションといった感じなのですが、大切なのは生徒のニーズに沿い満足してもらうことですので、こんなレッスンもありだと思います!
9 Iさん弁護士


さまざまな国のケースを抱えている弁護士さんです。
- 要望
-
日本人のクライアントや関係者と意思疎通がしたい
難しいトピックで自分の意見を日本語で表現できるようになりたい - レッスン内容
-
- 各国の企業文化の違い
- 各国の倫理観の違い
- 各国の法の違い
- 各国の良い点悪い点
期待できる効果
- 日本語らしい表現で論理的に話す練習ができる(弁護士さんなので元から論理的ですが)
- 難解な専門用語を日本語で使えるようになる
- 法的な会話を日本人とすることができるようになる
- 教材
-
特になし
上級のフリートークに対応できる日本語教師になるには
生徒の需要を満たし続ける
生徒の需要を満たし続ける。これが大切です。
そのために生徒の置かれている状況やニーズを常に把握し、ニーズに合ったトピックを提供し続けることが重要です。


幅広い知識を持つための努力
日本語の上級者は、日本語だけではなく他の知識にも長けた人が多いです。
上記のように生徒の需要を満たし続けるためには幅広い知識を持つこと、傾聴力、質問する力を持つことが必要です。
引き出しが少なく、会話がつまらない日本語教師は残念ながらリピートされません。
生徒が専門とするトピックに関しては生徒に説明してもらうことになるのですが、それでもある程度理解していないと良い質問ができません。
日頃から世界のニュース、生徒の専門分野などアンテナを張り巡らせておきましょう。
また、異文化についてディスカッションする場合も多いので、一般的な知識となぜ日本人はこのような行動をするのかなど自分なりの意見を話せるように心がけると会話が深まります。
上級者のフリートークに求められるのは「踏み込んだ知的な会話」です。そこで「自分の意見を相手に理解されるように話す」練習を生徒は求めているのです。


本、新聞を読む
では、前述の「幅広い知識をもつ」ためには具体的にどんなことをしたらいいのでしょうか。
私個人の対策をお話ししますと、単純に本や新聞をたくさん読んで知識を得る様にしています。Kindle Unlimitedで気になる分野の本を読むことが多いです。読み放題なので、その本が自分に合わなかったら辞めるなり斜め読みだけするなりできます。
全く無知の分野の本を購入するとなると、絶対わかりやすい本がいい!などと構えて買いにくいですよね。しかし読み放題なら軽い気持ちでダウンロードできます。ハードルが低くなるので、アクション実行までの時間が短くなりその分読める本、つまり知識が増えます。


Kindle Unlimitedだけではなく、audible
それぞれ1000円から1500円程度で読み放題、聴き放題と値段が手頃ですし何よりほんの種類が多いです。(最近アルクの日本語教育関連の本も最近Kindle Unlimitedに入っているのを見つけたので早速ダウンロードしました)
他には日経新聞をチェックしたり、生徒からおすすめされた本、映画、ドラマなどはなるべく目を通すようにしています。私は読書が好きなので気になりませんが、本を読むのが面倒な方は本の要約の動画やサイトを参考にしてもいいと思います。
他には日本人向けのビジネスの言葉遣いの本や、語彙力を高める本で「話し方」にも注意しています。
生徒のレベルに合わせた(実力より少し上で成長を促す)語彙を使い、レッスン時間を無駄にしないよう明確でわかりやすい話し方をする様に心がけています。
上級レッスンの重要ポイント3つ
- 上級フリートークのトピックは、生徒の「じぶんごと」に
- 上級の生徒が求めていのは「踏み込んだ会話」で「自分の意見を伝えられるようになる」こと
- 上級のフリートークで良い「返し」「質問」を投げかけるために、幅広い知識を学ぶ努力が必要